量子サイエンススクール参加報告 - Carg`eseでの学びと交流 -
2026年6月8日から20日の2週間の間、フランス・コルシカ島のCarg`eseで開催されたQuantum Technologies for Computation and Communication (qt4cc) というサマースクールに参加しました。今回のスクールでは、量子計算や量子誤り訂正、量子通信などの幅広いテーマについて、世界各地の研究者による講義を受けるとともに、海外の学生や研究者との交流を経験しました。
サマースクールでの参加者はフランス、イタリア、ドイツをはじめとするヨーロッパからの学生が多く、そのほとんどが博士課程の学生でした。修士課程の学生は私を含めて数名程度で、日本人の参加者は私一人でした。そのため、普段の大学生活とは大きく異なる環境の中で、英語を使って研究について議論したり、食事をしながら互いの研究生活について話したりする貴重な機会となりました。
講義では、現在の量子コンピュータ研究を支えるさまざまなハードウェアや、量子情報をノイズから守る量子誤り訂正について学びました。特に印象に残ったのは、超伝導量子回路におけるボソニック符号を用いた量子誤り訂正です。調和振動子の広いヒルベルト空間を利用して一つの論理量子ビットを符号化し、それ自体をハードウェア効率の高い誤り訂正層として利用する考え方は、私が普段研究している離散量子ビットを用いた量子誤り訂正とは異なり、とても興味深いものでした。
また、その他の方式であるイオントラップ、半導体量子ドット、中性原子、光量子コンピューティングなどについても学びました。講義後には講師の先生方へ直接質問する機会もあり、例えば、イオントラップ型量子コンピュータにおいて、イオンが2量子ビットゲート開始時点で有する温度はノイズとして扱うことができるのか、また、複数のゲートを連続して実行した場合に振動状態のノイズが次のゲートにどのように影響するのかといった、現在の自分の研究と直接関係する問題について議論することができました。
一方で、このスクールで得られたものは研究だけではなく、日常的な体験という面でも貴重な経験をさせていただきました。開催地であるCarg`eseは地中海に面した非常に美しい町で、会場の近くには青い海が広がっていました。日曜日にはサマースクールの運営の方々に、ボートを予約していただき、海へ出て、コルシカ島の景色を眺めながら泳ぐ機会をいただきました。毎日講義や議論をしていた参加者たちと、研究から少し離れた交流ができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。
さらに、食事を通じてもヨーロッパの文化を身近に感じることができました。特にフランスで有名なティラミス、カヌレやクロワッサンなど、日本でも馴染みのある料理を現地で味わったほか、町を歩けば教会をはじめとするヨーロッパらしい建築を見ることができました。サマースクールへの参加でありながら、日々の生活そのものを通してヨーロッパの文化に触れることができた点も、海外で開催されるスクールならではの経験だったと思います。
滞在期間中にはワールドカップの予選が開催されており、日本対オランダ戦やフランス代表の初戦を、サマースクールの参加者や、レストランで現地のフランス人の方々と一緒に観戦しました。
それぞれが応援している国を応援し、にぎやかに歓声を上げる雰囲気はとても楽しく、日本人として海外で自国の代表を応援する経験は、これまでにない新鮮な体験でした。
また、Carg`eseでは夜になると非常に美しい星空を見ることができました。現地の学校には天体観測用の望遠鏡があり、昨年ノーベル賞を受賞されたMichel Devoret先生と、その他の参加者の方々と一緒に天体観測を行いました。世界を代表する研究者と、講義室ではなく星空の下で時間を共有できたことは、今回のスクールの中でも特に印象深い思い出の一つです。
そして最終日には、教室を外に移し、青空の下で講義が行われました。海と空に囲まれたCarg`eseならではの環境の中で最後の授業を受けたことで、数日間にわたるスクールが終わることを実感すると同時に、この場所で得たさまざまな経験を振り返る時間にもなりました。
今回のスクールでは、最先端の量子科学について学べたことはもちろん、自分とは異なる環境で研究する学生や研究者と直接交流できたことが非常に大きな経験となりました。特に、博士課程の学生が中心となる環境に修士課程の段階で参加できたことで、自分の現在の研究を国際的な研究コミュニティの中でどのように位置づけるか、また今後どのような研究者を目指したいかについて考えるきっかけにもなりました。
2週間という期間の中で、講義だけでなく、食事や海、スポーツ観戦などを通して参加者と交流できたことも非常に印象に残っています。今回得た経験を、今後の研究や海外の研究者との交流に活かしていきたいと思います。